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私の知らない私と、私しか知らない私 (2008年12月03日)
人体の構造は人それぞれであり、任意のどの二人を取っても、まったく同一の“ハードウェア”を持っていることはありません。一方、各器官の相対的な配置や形状パターンには多くの場合かなりの相似性があるため、標準的な人体の構造・機能のモデルを構築することは可能です。
医学が人体について有している一般的な認識は、この標準モデルがベースとなります。標準から逸脱した病理的な現象を一般的に指し示す場合にも、「病理現象の標準モデル」が基本となります。こういった標準モデルは、不特定多数の人間を包含した一種の最大公約数のようなものであり、不特定多数の患者を診る臨床医療の現場においても不可欠な認識の道具です。この標準モデルは、研究や臨床の現場から得られた経験的な知見によって絶えず更新され続け、新たな症例やそれに対する加療の経過などといった個別事例は、蓄積されて一般的な病理モデルの一部を構成します。

東京ミッドタウン(写真と本文はまったく関係ありません……って今年もこのシリーズやるのか?) でも、標準モデルは決して現実に生きられている個々の人体についての、直接の写し絵ではありません。あなたが初めて行く病院で診察してもらう時、最初に医師が頼りに出来るのは一般的なモデルしかありません。それから医師は、あなたの体に生じている症状の診察や、あなた自身の口から語られる症状の経過についての問診といった経験的データを収集し、それを人体や病理現象の標準モデルと照らし合わせます。あなたの胸に聴診器を当てて音を聴きながら、医師の頭の中ではこの照合作業が行われているのです。
あなたと医師が対面している診察室という場で、患者のあなたは、他の誰も知りえない自らの記憶や内的感覚を頼りにした「あなたしか知らないあなたの体」を提示します。これに対して医師のほうは、これまで蓄積された医学的知識の集積としての標準モデルや、他の人についての過去の臨床経験から得られた様々な知見を援用しながら、「あなた自身には知ることの出来ないあなたの体」を提示することになります。どちらかが絶対的な正解だというわけではなく、診察というのはある意味で、二つの「あなたの体」のすり合わせ作業であるとも言えるのです。
ただ、医師が診察・治療の時に使用する専門的な知識は、あなただけではなく他のあらゆる不特定多数の患者に関する医学的知見から組み上げられたものであり、その中にはあなたの体がまったく経験したことのないような病気・症状などもたくさん含まれます。
あなたの自己診断が医師の診断よりも確実に当てになる領域は、医師の使用するこういった一般的な医学的・病理学的概念があなたの体の診断に適用される前の、内的感覚における異状の感知と、その異状を今までの人生経験の記憶と照らし合わせて「自分の体によくありがちなパターン」をある程度推測するところまでです。医師はあなたの記憶や内的感覚を直接的に共有しているわけではないので、これについてはもっぱらあなた自身だけが頼りとなります。私自身の話で言えば、私は長年に渡って自分の体と付き合ってきたので、風邪をひきそうな時の悪寒と単に寒い時の悪寒の区別が、(絶対確実とまでは言わなくとも)何となくつけられます。どんな名医にだって、私自身の証言抜きにこの区別を行うことは決して出来ないでしょう。
一方で医師は、あなた自身しか知りえない種類の経験的判断は出来ませんが、専門知識や無数の不特定多数の患者を診てきた経験から、人体において一般的にありそうなパターンを推測することが出来ます。その中には、あなたが今まで経験したことのない病気や症状も含まれているでしょうし、そういった場合にはあなた自身の記憶や内的感覚は当てにならなくなります。
医学の専門知識は、あなた以外のたくさんの患者にも当てはまる標準モデルや網羅的なパッケージなのであり、素人が予備知識の無いままにそのモデルやパッケージを眺めて、その中から特定のデータを取り上げて「あ、これは何となく自分に当てはまりそうだな」と判断しても、そもそもそれはあなた自身の体にはほとんど当てはまらないデータである可能性があるのです。
今ではネット上にたくさんの情報が溢れていますが、その中には、適切な使い方を知らぬまま安易に利用してしまうとかえって弊害を招くような情報も含まれています。
「自分のことは自分が一番よく知っている」などという言い回しを時折見かけることもありますが、自分の身体について「自分が一番よく知っている」と言えるのは、あくまでも他人が知りえない感覚的知覚(および過去に自分が経験した同種の感覚の記憶と現在の知覚とを照合することで得られる大まかな判断)までです。もしそこから一歩踏み込んで、その感覚判断を医学的・臨床的概念によるモデルや過去症例についてのネット上の情報に照らし合わせて、専門的な予備知識やアドバイス無しに「これは脳腫瘍の可能性が高い」などという判断を下したなら、それは「自分が一番よく知っている」範囲を越えてしまうことになるのです。
医学が人体について有している一般的な認識は、この標準モデルがベースとなります。標準から逸脱した病理的な現象を一般的に指し示す場合にも、「病理現象の標準モデル」が基本となります。こういった標準モデルは、不特定多数の人間を包含した一種の最大公約数のようなものであり、不特定多数の患者を診る臨床医療の現場においても不可欠な認識の道具です。この標準モデルは、研究や臨床の現場から得られた経験的な知見によって絶えず更新され続け、新たな症例やそれに対する加療の経過などといった個別事例は、蓄積されて一般的な病理モデルの一部を構成します。

東京ミッドタウン(写真と本文はまったく関係ありません……って今年もこのシリーズやるのか?)
あなたと医師が対面している診察室という場で、患者のあなたは、他の誰も知りえない自らの記憶や内的感覚を頼りにした「あなたしか知らないあなたの体」を提示します。これに対して医師のほうは、これまで蓄積された医学的知識の集積としての標準モデルや、他の人についての過去の臨床経験から得られた様々な知見を援用しながら、「あなた自身には知ることの出来ないあなたの体」を提示することになります。どちらかが絶対的な正解だというわけではなく、診察というのはある意味で、二つの「あなたの体」のすり合わせ作業であるとも言えるのです。
ただ、医師が診察・治療の時に使用する専門的な知識は、あなただけではなく他のあらゆる不特定多数の患者に関する医学的知見から組み上げられたものであり、その中にはあなたの体がまったく経験したことのないような病気・症状などもたくさん含まれます。
あなたの自己診断が医師の診断よりも確実に当てになる領域は、医師の使用するこういった一般的な医学的・病理学的概念があなたの体の診断に適用される前の、内的感覚における異状の感知と、その異状を今までの人生経験の記憶と照らし合わせて「自分の体によくありがちなパターン」をある程度推測するところまでです。医師はあなたの記憶や内的感覚を直接的に共有しているわけではないので、これについてはもっぱらあなた自身だけが頼りとなります。私自身の話で言えば、私は長年に渡って自分の体と付き合ってきたので、風邪をひきそうな時の悪寒と単に寒い時の悪寒の区別が、(絶対確実とまでは言わなくとも)何となくつけられます。どんな名医にだって、私自身の証言抜きにこの区別を行うことは決して出来ないでしょう。
一方で医師は、あなた自身しか知りえない種類の経験的判断は出来ませんが、専門知識や無数の不特定多数の患者を診てきた経験から、人体において一般的にありそうなパターンを推測することが出来ます。その中には、あなたが今まで経験したことのない病気や症状も含まれているでしょうし、そういった場合にはあなた自身の記憶や内的感覚は当てにならなくなります。
医学の専門知識は、あなた以外のたくさんの患者にも当てはまる標準モデルや網羅的なパッケージなのであり、素人が予備知識の無いままにそのモデルやパッケージを眺めて、その中から特定のデータを取り上げて「あ、これは何となく自分に当てはまりそうだな」と判断しても、そもそもそれはあなた自身の体にはほとんど当てはまらないデータである可能性があるのです。
Web 検索を使った病気の自己診断に注意(Yahoo!/japan.internet.com 2008/12/1)
自分がどんな病気を患っているのか、インターネット検索で調べているとしたら、考え直したほうがいいかもしれない。
最新の調査結果によれば、人は健康に関する情報を検索する場合、最悪の結論や仮定に飛びついてしまう傾向があるという。
Microsoft の研究者 Ryen White 氏と Eric Horvitz 氏が実施したオンライン医療検索行動に関する調査では、そうした検索の際に、「サイバーコンドリア (cyberchondria)」と呼ばれる症状に陥りやすいことが明らかになった。サイバーコンドリアとは、「hypochondria (心気症)」のオンライン版を表わす言葉として8年前に生まれた造語だ。そして心気症とは、ちょっとした症状を重病の兆候と思いこんでしまう精神的な病気を指す。
「検索結果を閲覧することで、ごく普通の症状に対する不安が根拠もなく増大する現象を指すものとして、われわれは『サイバーコンドリア』という言葉を使っている。Web は、医療訓練をほとんど受けていないか、まったく受けていない人の不安を高めることがある。特に、病気の判断材料を得る目的で Web 検索を行なう際には、その傾向が強い」と White 氏らは述べている。
White 氏と Horvitz 氏によれば、自覚症状を詳しく調べることができるため、Web は心気症患者を増やす「格好の場所」になっているという。
その結果、心気症の傾向があるユーザーの場合、「頭痛」や「胸やけ」といったごく普通の症状に対する不安が、「脳腫瘍」や「心臓発作」といった深刻な病気に関する Web 検索へと簡単にエスカレートしてしまう。
「こうしたエスカレート現象は、ユーザーの閲覧する医療関連コンテンツの量や分布状況に関連している可能性があることが分かった。そのほか、閲覧するページに不安を増大させる専門用語が存在していることや、病気に関してよりもっともらしい説明を求めたり、検索をエスカレートさせるユーザーの傾向なども関係している」と両氏は語る。
調査報告書によれば、健康に関連する検索で得た情報は、医師に相談すべき時期の判断や、健康維持に対する向き合い方にも影響する場合があるという。
(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081201-00000002-inet-inet)
今ではネット上にたくさんの情報が溢れていますが、その中には、適切な使い方を知らぬまま安易に利用してしまうとかえって弊害を招くような情報も含まれています。
「自分のことは自分が一番よく知っている」などという言い回しを時折見かけることもありますが、自分の身体について「自分が一番よく知っている」と言えるのは、あくまでも他人が知りえない感覚的知覚(および過去に自分が経験した同種の感覚の記憶と現在の知覚とを照合することで得られる大まかな判断)までです。もしそこから一歩踏み込んで、その感覚判断を医学的・臨床的概念によるモデルや過去症例についてのネット上の情報に照らし合わせて、専門的な予備知識やアドバイス無しに「これは脳腫瘍の可能性が高い」などという判断を下したなら、それは「自分が一番よく知っている」範囲を越えてしまうことになるのです。
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